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スザクとカレンが夫婦で、子供がいると言う噂は誤解だったと解ったユーフェミアは、先ほどとは一転し上機嫌となっていた。 スザクが気付いているかは知らないが、浮気した彼氏を問い詰める彼女の図だったし、よくよく考えれば「私は貴方の事が好きなんです!」と告白しているようなものだった。ユーフェミアは冷静になってその事に気付いたが、相手であるスザクもにこにこと笑顔を浮かべてしまっている為、正式に告白はしていないが、スザクに受け入れられたと思っている・・・だろう。 頬を染め、目をキラキラと輝かせスザクを見るユーフェミアは恋する乙女の顔だ。しかも一方的な、俗に言う片思いの表情ではなく、どうみても相思相愛の恋人を見つめる熱いまなざしだった。 お飾りの騎士にスザクがなった事でルルーシュとナナリーは悲しんだが、こうやってみていると邪魔もの二人がくっついて、晴れてルルーシュは私のものになるから好都合じゃないか?と考えていると、ユーフェミアがこちらに視線を向けた。 「あら?貴女はこの家の方ですか?」 キョトンと、不思議そうな顔で言う姿に、流石のスザクも顔をひきつらせ、C.C.は呆れてため息をついた。まさかまさかとは思っていたが、猪突猛進皇女は、標的であるスザク以外完全に見えていなかったらしい。 ・・・失敗した。 今の内に逃げていても、気づかれなかったんじゃないか。 窓から逃げるんだったと激しく後悔したが、そんな感情を表に出す事はない。 20年も生きていないひよっこ共に感情の揺れを悟られるなんて恥だ。 「ああ、この家の者だ。話し合いはどうやら終わったようだな?既に夜は更けている、用が済んだなら帰った方がいいだろう、外で軍人が首を長くして待っている」 よし、声も動揺していないな。流石私だ。 自画自賛しながら話し続けるC.C.に、皇女に対する言葉づかいでは無いだろうと、スザクは慌てた。ようやく落ち着いてくれたんだから、新たな争いの種はまかないでくれと目で訴えるが、何で私が小娘に媚び諂わなければならないんだと、スザクの視線は無視した。 「あら、こんな時間だったのですね、気付きませんでした」 スザクの話を聞いて頭に血が昇っていたせいで、今何時なのか完全に失念していたらしい。周りが見えなくなるタイプなのは重々承知しているが、見え無さ過ぎだろう。 ・・・おい、ルルーシュ、スザク。お前たち、本気でこのお飾りを皇帝に据える気か?私は恐怖しか感じないぞ?と、C.C.は内心冷や汗を流した。 「そろそろ日付も変わる時間だ、私たちも休みたい」 「そうですね、ごめんなさいこんな時間に来てしまっ・・・て・・・」 柔らかい笑顔を向けながら話していたユーフェミアの目が次第に見開かれ、途中で言葉を詰まらせた。じっと見つめるその視線の先にはC.C.。だが、これは自分を見ているわけではない事にC.C.はすぐに気がついた。 ようやく冷静さを取り戻し、周りが見えるようになったユーフェミアの視界に、C.C.の後ろのものが見えたのだ。 それは車いす。 座っている者の姿はC.C.がいる為見えない。 ユーフェミアは不思議そうに首を傾げた。 スザクもC.C.も車いすなど使わない。 しっかりと自分の足で立っている。 先ほどのメイドも同じ。 では、あれはどうしてここに? 誰かいるのかしら? ユーフェミアが覗き込むように体を動かすと、C.C.の背に隠れていた人の頭が見えた。スザクより薄い茶色い髪。長さがあるから女性だろう。 「他にも人がいたのですね」 「・・・ああ、この子はもう疲れて寝てしまっている。あまり気にしないでくれ」 「あら、そうなのですか?挨拶だけでもと思ったのですが・・・」 まじまじと、何かを探るような視線を向けてくるユーフェミアの声は、次第に小さくなっていった。何かを考えるように口元に手を当て、首を傾げていたが、突然その両目を大きく見開いた。 「・・・ナナリー?あなた、ナナリーね?」 確信に満ちた声で名前を呼ばれ、ナナリーはびくりと体を震わせた。寝ている、と言った嘘はそれだけでばれてしまう。名前に反応したことで、ユーフェミアはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。 「やっぱり、ナナリーなのでしょう?私よ、ユーフェミアよ」 名前を呼びながら近付いてきたユーフェミアの歩みを止めるため、C.C.はその進路を遮った。どうして邪魔をされるのか解らないらしく、ユーフェミアは驚いた顔をC.C.に向け、そしてすぐに皇族の顔に改めると強い口調で命令を下した。 「おどきなさい」 「断る」 だが、皇族の命令に黄金の瞳の少女は平然と異を唱えた。おそらく同じぐらいの年だろう少女は表情を消し、まるでナナリーを守る盾のように立ちはだかっていた。 世界で最も尊い血筋、世界の頂点たる血族、ブリタニア皇族。 その皇女の言葉を拒否できるのは、同じ皇族か、あるいは敵対する国だけ。 そうでなければ、命じられた時点で「イエス、ユアハイネス」と答えるしかない。 今までの人生において、皇族と教師たち、そして敵対国の国民以外に否定の言葉をあげられた事が無いユーフェミアは驚きを隠せなかった。 ・・・馬鹿な事をしているなと、C.C.は自嘲した。 これでは、そこにいるのがナナリーだと肯定したことになる。 だが、今はそこにナナリーだけでは無い、幼い姿のルルーシュもいるのだ。会わせるわけにはいかない。C.C.はすっと目を細めた。 「何故邪魔をするのですか」 「もし、ここにいるのがナナリーだとしたら、お前はどう考える?」 「どういう意味ですか?ナナリーが生きていたなら喜ぶべき事です。すぐにでもお姉さまたちに知らせて」 「やはりお飾りは考えが足りないな」 「C.C.!」 皇女を馬鹿にするなとスザクは咎めたがC.C.は聞き流し、ユーフェミアを見た。 「仮に、ここにいるのが死んだ皇族であるナナリーだったとしよう。もし生きていたなら、どうして戻ってこなかったのか、どうして死んだことになったのか、少しは考えたらどうだ?」 「え?・・・それは・・・連絡したくてもできない状態だったのです」 「お飾りは勉強はしなくていいのか?もしこれが試験なら落第点だ」 魔女は嘲笑いながら言った。 「もし生きていると知られれば、殺されるから隠れているんだよ、皇女様?」 「な、だ、誰がナナリーを殺すのですか!?」 「マリアンヌを殺した犯人と言いたい所だが・・・シャルルに、だ」 「何故お父様が?そんなことありえません!訂正しなさい!!」 皇帝である父を呼び捨てにした事にも驚いたが、何故父が兄と妹を殺すのか、その意味が解らないとユーフェミアは言った。 「危害を加えないなら、何故目も足も不自由な子供を他国へ送った?何故その国と戦争をした?・・・なぜ、迎えをよこさなかった?」 「迎えは」 「誰も二人を迎えになど来なかった。その意味、いくらお飾りでも解るな?」 お飾りと目の前で呼ばれ、無能だと嘲笑われる経験など初めてのユーフェミアは、眉を寄せC.C.を睨みつけた。 「貴女の話など信用できません!」 「なら、お前の騎士の話なら信じるか?誰も迎えに来なかった事も、誰も助けてくれなかった事も・・・ルルーシュとナナリーが日本に捨てられた事も、全てその男は知っているぞ?なにせ、その場に共にいたのだからな」 ユーフェミアは「えっ?」と、おどろきの声をあげた後、後ろを振り返った。 そこには自分の騎士となった少年が立っており、C.C.の言葉を肯定するような、苦々しい表情を浮かべていた。 「スザク、貴方は・・・」 「ユーフェミア様もご存知のことですが、自分はこの国が日本だった頃の首相、枢木ゲンブの息子です。ルルーシュとナナリーが日本に留学した時、二人は自分の家にやってきました・・・あの戦争も、三人で共に体験したのです」 ユーフェミアは、スザクがゲンブの息子ということは知っていたが、兄と妹がこの国に留学した際に共に過ごしていた家の者だとは思っていなかった。 そのスザクが、自分の騎士が、目の前にいる少女の言葉を肯定した。 ルルーシュとナナリーは、日本に留学した。 二人が日本にいたのに、皇帝は戦争を始めてしまった。 迎えも送らず、助けることもなく。 それは皇帝が選択した二人の未来。 異国の地に残された二人の未来は一つ。 死。 それは、母親を亡くしたばかりの息子と娘を殺す選択。 考えた事もなかった。 皇帝が、我が子を自らの意思で排除することなど。 その時、今まで信じていた何かが崩れた気がした。 |